【飲食店統括→起業】「責任のある自由」を追いかけて|北中知己

底抜けに明るい性格、耳に残る声、背後にある信念…。かつて、飲食店で50人のスタッフを束ねる名物マネージャーを務めていた北中知己さん。

世界一周を終えて、出発前から計画していた飲食店を2017年1月に銀座にオープン。北中さんのいう「責任を負う自由」とはどういうことなのか?北中さんのお店「TABI×DINING ROUTE ZERO」にて、世界一周後のお話をお伺いしました。

北中知己さん:
1979年生まれ。東京都在住。大学卒業後にワーホリでカナダへ。帰国後、ラジオパーソナリティの仕事を経て、銀座の飲食店統括店長へ。2015年に退職し、36歳で世界一周の旅へ。400日の旅を経て、2016年6月に帰国。翌年2017年1月に銀座にて、TABI×DINING ROUTE ZEROを開店。

 

サンディエゴの飲食店が壊してくれた「ありえない」という壁

ーまずはじめに、旅に出るまでのお話を聞かせてください。

北中知己さん(以下:北中):大学を卒業してからは、ワーキングホリデー(以下:ワーホリ)でカナダに行っていたんです。洋画のようにフランクな英語を話せるようになりたいっていう理由で(笑)。お金を稼ぎながら勉強して、とにかく現地の友達と話す!を徹底していたら、半年くらいは日本語を使わなかったかな。

ーカナダへのワーホリから帰ってきてどんなことを?

北中:帰国後は、ラジオの専門学校に通って、事務所に所属しながらラジオパーソナリティーや司会の仕事をしていたんです。ほら、声に特徴があるでしょ!

でも、給料が少なくてね…(笑)。本当はいけないんだけど、こっそりバーテンダーの仕事をしていたら、だんだんこっちの方が面白くなってきちゃって、正社員として飲食店で働くことにしたんだよね。

あれから8年半、お客さんの最大収容人数が250人、スタッフが50人ほど在籍している銀座のお店で、世界一周に出発するまでは、統括店長をしていたんです。

ーそこからどうして世界一周の旅に出ようと思ったのですか?

北中:よく海外旅行をしていた両親や本の影響もあるんだけど、「単純に旅に行きたかった」っていうのが本当の理由かな。

飲食店で働いていた時もよく海外旅行に行っていたけれど、一週間のお休みだと、アフリカや南米は行けないからね。だからこの旅では短期では、行けないところに行こうと思って。

入社した時は、5年後に旅に出て独立するって宣言していたんだけど、結局8年半働いていたら、計画していたよりお金が多めに貯まったので「今、行くか!」って(笑)。世界一周は「いつかしたい」じゃなくて、「行く!」って決めていたことだったから。

ー昔から計画を立てていたのですね!旅が好きになったきっかけって何かあるんでしょうか。

北中:ワーホリを終えて日本に帰国する前に、レンタカーでバンクーバーからメキシコまでアメリカを縦断したことがあるんだけど、そのときの経験が影響しているかな。

ーそれはどんな経験だったのでしょう。

北中:アメリカを縦断中に立ち寄ったサンディエゴの飲食店がもうとにかく素敵で…!そのお店がレストランなのかクラブなのかバーなのかよくかわからなかったんだけど、その「わからない感じ」が素敵だったんだよね。


北中:お店に入ると店員さんが隣に腰を掛けてきて、「どう決まった?今日のおすすめはこれとこれね!」「わかった。OK〜!」みたいなラフな接客が衝撃的で…。今まで日本で経験したことのないこの接客が、自分の中の「ありえない」が壊れた瞬間でしたね。

ーなるほど!この経験が旅にも、旅後の今にも活かされているのですね!

北中:そうそう!こうやって旅をすることで、日本では「ありえない」出来事に遭遇するじゃない?その度に、”いろんな人の価値観や考えを受け入れられる範囲が広がっていく”って思っているんです。

 

スーパーアクティブニートがハーレーを買って起業!?

ーどのようなスタイルの旅をされていたのでしょうか。

北中:とにかく行きたいところに行くスタイル。アメリカではroute66をハーレーを借りて旅したり、あまり旅人がいかないバヌアツやモーリシャスのようなマイナーな場所に行ったりしていましたね。あまり、金額も気にしないで、行きたいところがあれば、飛行機で飛んだりしていたら、400日で◯◯万もかかっちゃったよ(笑)。

ー◯◯万円……!?高っ!(まじで言えないくらい高い…)
旅を終えて、なにか変わったことありましたか?

北中:やっぱり「受け入れられる範囲」がさらに広がったことかな。ワーホリをしたときに広がった価値観を今回の世界一周の旅がもっと広げてくれましたね。

ーもともと帰国したら、飲食店の立ち上げをしようと思って旅立ったとのことでしたが、旅中に新たなやりたいことに出会うかも!?みないな淡い期待はなかったですか?実際、自分探しをしている旅人も多くいますよね。

北中:たしかに、新しいことをやりたくなる自分に期待していた部分もちょっとだけあったね。でも、現実的にお金を稼ぐための最短ルートは経験値がある飲食業かなと思っていましたね。

それに、旅の途中で新たにやりたいことをみつけて、お金を稼ぐレベルに到達するのは難しいと思ったね…。時間をかければできるのかもしれないけど、早くお金を稼ぎたいなら経験したことのある職業がいいのかなって思っちゃうね。

ーでも、ゼロからこのお店を立ち上げたんですよね?そのエネルギーってすごいです…!

北中:いやいや、旅から帰ってきた後はいろんな人に会いに行く、スーパーアクティブニートだったから(笑)!でも、しばらくするとニートにも飽きてきて…。ぼちぼち働くかなーって、帰国して5ヶ月後くらいから本格的に動き出しましたね。

ーリアルな話…お金はどうしたんでしょうか。帰国後って無職ですよね?お金を借りるのも大変なのでは?って思うのですが…。

北中:お金は、なんとか国民生活金融公庫から借りることができたんだけど、これが大変…!勤めていたときの年収と預金があったからなんとかなったけど、職歴に一年間空白があると足元を見られてとても苦労しました…(笑)!

ーそこまでして、お尻を叩いてくれたものってなにかあるんでしょうか。

北中:それは、ハーレーを買ったことだね。

ーえ、ハーレー?それは、どういうこと…。

北中:どうしてもバイクが欲しくて…(笑)。出店用の自己資金でハーレー・ダビッドソンのバイクを買って、自分のお尻を叩いていたんです。

帰国してから物件探しはしていたけれど、なかなか本気モードになれなくてね。6月に帰国して、融資の相談を開始したのが11月、お金借りたのは12月初旬、12月5日に物件の引き渡しをされて店舗の改装をスタート。仲間と一緒に急ピッチでDIYしてお店が完成したのが、1月中旬です。長いことニートやるもんじゃないね。リハビリがかなり辛かった(笑)!

ー決まってからが早いですね…!!ここはどんなお店なんでしょうか。

北中:旅好きが自然と集まれるような場所にしたいよね。あとは、ここで旅の相談を受けられたり、サンディエゴで出会ったお店のような”なんでもあり”のお店にしたいね。

 

「無責任な自由」ではなく、「責任のある自由」を選びたい

ー帰国後に、思い描いていたように次の一歩を進められたってすごいことだと思うのですが、同じように旅から帰ってきて、一歩を踏み出せない人にアドバイスはありますか?

北中:実は"また稼がなきゃ!"って原動力になったのは、「もう一度、世界一周旅行に行く!」と決めたからなんです。次は、奥さんと一緒にね。一人旅もよかったけど、やっぱり話をするのが好きだから、パートナーと景色や想いを共有したいと思って。また旅に出ることを決めたから、しっかり稼いがないとね!

旅する前と同じように、もう一度稼げると信じているんだよね。5年後にはまた旅していたいしね。まぁ、こんなこと言ってるけど…まだ相手はいません(笑)!

ー次の目標が原動力になっていたのですね。素敵です!

北中:あとは、自分の生き様を羨ましく思ってくれる人や、後輩の期待を裏切らないようにしたいって想いもあります。

正直なところ、飲食業は夢のない業界だと思われているからね。今までレールがないところにレールを引くことが自分の役目だと思っているし、万が一失敗することになれば、後輩のレールも閉ざしていまうことになる。だから、自分のことを見てくれている後輩たちのためにも頑張らないとだよね。

北中:あとは、旅に出るのって実は簡単なんだよね。だからこそ出発するときに旅の終わりのこと決めといた方がいいのかなって思う。旅に出るのも、女の子と付き合うのも、商売を始めるのも実は簡単だけど、続けたり終わりを決めるのが大変なんだよね。だから必要なのは勇気じゃなくて「覚悟」だと思う。

どうなりたいかのイメージを持たないままはじめると「なんとなく」になってしまうけど、なりたい自分を目指してはじめれば「覚悟」になるからね。それと、旅から帰ってきた人には、もう旅は終わっているんだよと伝えたいね。

ーえ?それは、どういうことですか?

北中:旅中にあった人に日本で会うとみんなお金を持っていないんだよね。旅行中に節約するのはわかるけど、日本に帰ってきているのに、旅人気分でいる人には早くお金を稼ごうよって思っちゃう。だって、世界一周した人には責任があるからね。

ー責任がある…?

北中:旅から帰ってきてダラダラした姿を見せることは、これから旅に行こうとしている人たちや、世界一周に憧れを持っている人に失礼だと思うよ。多くの人がやりたくてもできないことをやってきたんだから、人並みにお金がないのは格好悪いよね。

ニートは何に対しても責任を負わない状態で楽だったけど、何かに対して責任を負わない人生はつまらないと思う。それを「自由」と呼ぶ人もいるけど、「無責任な自由」ほど退屈なものはないよね。責任を背負った自由は「Liberty(リバティー)」で、無法地帯は「Freedom(フリーダム)」。自由の女神はリバティーだからね!

旅から帰ってきて自由を履き違えた人をよく見るけど、お金がないって不自由じゃない?責任を負わないと本当の意味での自由にはなれないんじゃないかな

ー自分にも思い当たる節が…。心に響く言葉ですね…。

北中:いや、先に発言しちゃうんだよね。こうやってはっきり言うと前に進まないといけなくなる。ほら、ハーレーも買っちゃったくらいだし(笑)!

こうやってここで発言することで、5年後の自分の姿をみんなに評価してもらえるし、少しスピードが遅ければ、「やばい!」って自分のお尻を叩いてくれるからね。これからも責任のある自由を追いかけたいね。

取材日 2017年3月
編集 石川たえこ

TABI×DINING ROUTE ZERO
住所:東京都中央区銀座6-13-7 新保ビルB1
電話番号:03-6264-7004
定休日:日曜
営業時間:11:30~17:00(L.O.16:30)(ランチ営業は月から金)
     17:00~04:00
URL:http://routezero.jp/

 

 編集後記

「何かに対して責任を負わない人生はつまらない」今回北中さんにお話をうかがって特に印象的な言葉でした。道に迷ってしまったときは、一度立ち止まってこの言葉を思い出してみることにします。あなたが求める自由は「Liberty」と「Freedom」どちらですか?

石川 景規
1987年生まれ、東京在住(2017年8月より長野へ)。大学卒業後、地方銀行に5年勤務。結婚した半年後、2015年1月から500日かけて世界一周の旅へ。2016年5月末に帰国し、2017年8月から長野県上伊那飯島町で町の農産物の販路拡大と、古民家リノベーションのプロジェクトをスタートする。

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